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「体温のあることば」をどう生み出すか?AI時代における「ことばのあり方」を紐解く~第45回 製薬協 広報セミナー登壇レポート~
FIELD MANAGEMENT EXPAND(以下、FMX)のクリエイティブディレクター・松井一紘が5月11日、日本製薬工業協会(以下、製薬協)主催の「第45回 製薬協 広報セミナー」に登壇しました。

製薬協は、1968年の創立以来「患者参加型医療の実現」を理念に掲げ、世界の医療の発展に貢献し続けている、研究開発志向型の製薬企業68社(2026年4月1日現在)が加盟する任意団体です。今回の登壇は、第63回宣伝会議賞の中高生部門において、製薬協が出題した課題の受賞作を松井が講評した縁で実現しました。
昨今、生成AIの普及によりコミュニケーションが定型化しがちな中で、受け手の心に響く「体温のあることば」とは何か。松井は本セミナーのゴールを、人間が紡ぐ言葉の正体とそれを生み出す思考プロセスを再考し、深掘りすることに設定。AI時代における「ことばのあり方」を問い直したセッションの様子をレポートいたします。
クリエイターの視点から語る、広報担当者が向き合うべき「ことば」の本質
冒頭、松井は「広告コピーに携わる視点から、広報実務でも重要となる言葉についてお話ししたい」と挨拶。情報の解釈が多様化する現代において、いかに受け手の感情を動かし、記憶に残るメッセージを届けるべきか、その必要性を説明しました。

AIの進化により文法的に正しい文章は容易に作れるようになりましたが、効率を優先した文章は時に記憶に残りにくいものです。松井は、AIが生成した一般的で中立的なコピーを例に挙げながら、AIという便利なツールをパートナーとして使いこなしつつ、「人間ならではの体温」をどう宿らせるべきかを考察しました。
「体温」の正体を解体する:マーケティング理論から紐解く「ことば」の構造
松井は、「体温のあることば」を単に「エモーショナルなもの」と定義するだけでは再現性がないとし、その源泉である「マーケティング」の視点から論理的に解説しました。言葉そのものが「薬(medicine)」のように相手に作用しているかどうかが、体温の有無に直結すると松井は話します。さらに、マーケティングの歴史における2つの流派を引き合いに出し、言葉に宿る体温の構造を説明しました。

・ポジショニング派(よそを見よ): 市場における「独自の陣地」を重視する考え方。他とは被らない独自の視点が提示されたとき、人はそこに新しさと「温度」を感じます。
・ケーパビリティ派(己を見よ): 企業内部の「独自の価値」に着目する考え方。その企業にしか言えない価値が内側から滲み出たとき、人は唯一無二の「温度」を感じ取ります。
優れたコピーはこのいずれか、あるいは掛け合わせによって、他者に真似できない「温度」を宿しているのだと解説しました。

実践的な「体温」作り:正しい表現から離れ、正負の力学を生む
続いて松井は、具体的にどうすれば言葉に体温が宿るのか、自身がこれまでの仕事を通じて感じ取ってきた2つのメソッドを解説しました。

・1. 正しい表現から離れる(人間らしさの表出)
文法的に正しすぎる文章は、時として無機質になります。あえて日常の話し言葉のような「生っぽさ」を残すことで、ふと思いついた瞬間の熱量や意志が表現され、人間らしい体温が生まれます。
・2. 一文の中に「正負」の力学を作る(ダイナミズムの創出)
体温は絶対値ではなく、相対的な比較によって生じるものです。一文の中に正極と負極という対極の要素をあえて混在させることで、言葉に強い引力とダイナミズムが生まれます。本来は遠い位置にある感情や事実を組み合わせることが、受け手の心に熱を伝える手法となります。
実践ワークセッション:広報担当者が生み出す「体温のあることば」
最終章では、参加者が考案した「製薬業界のイノベーティブさを表現するキャッチフレーズ」の講評を行いました。52作品の中から松井が選出したのは以下の2本です。
準グランプリに選ばれたのは、「生きたいと、生きてほしいが出会うとき。」というコピー。松井は「患者と研究者の想いが対になり、主客一体となって正負の力学をもたらしている」と評しました。
グランプリには、「“まだない”を、終わらせる。」が選ばれました。受賞者が「治療薬がない現実を終わらせたいという強い意志を込めた」と背景を説明。松井は「“薬をつくる”ではなく、“終わらせる”という終点を描くことで独自の陣地を確立しており、正しさに安住しない強さと大きな言葉のジャンプがある」と絶賛しました。

人間にしかできない「体温」の吹き込み
セミナーの最後には、参加者から「言葉がどのように構成されているのか論理的に整理され、非常に勉強になった」「業務の都合で参加を迷っていたが、今日来て本当に良かった」といった感想が寄せられ、熱気のあるセッションとなりました。
松井は最後に「AIは“正しい文章”を教えてくれる素晴らしいパートナーですが、そこに意志を込め、最後に“体温”を吹き込むのは、やはり人間にしかできない仕事です。本日の内容が皆様の今後のお仕事に少しでも役立てば幸いです」と締めくくりました。
FMXは、「想像を超える創造。」を理念に掲げ、戦略策定から施策実行までを分断させない「一気通貫」のクリエイティブによって企業の事業成長を支援。単にソリューションとしての答えを提示するにとどまらず、企業の規模や業態によって異なる固有の課題に寄り添い、共に変化を生み出すパートナーを目指しています。今後もクリエイティブの力を通じて、企業の想いが社会に正しく、誠実に、そして熱を持って伝わるよう尽力してまいります。
松井一紘プロフィール

Creative Director / Copywriter
1987年山口県下関市生まれ。2012年TYO新卒入社。グループ組織改編により、2022年よりFMX 取締役VP of Creative兼クリエイティブディレクター / コピーライターを務める。ブックオフ「ブックオフなのに本ねぇ〜じゃん!」で2020年度TCC最高新人賞受賞、2019年ACCフィルム部門グランプリ。メルカリ「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」新聞広告で2022年TCC賞ほか受賞。最近の仕事に、野村の仲介プラス「アイドルなのに」、バイク王&カンパニー「バイク愛と」、ブックオフ 「バイトのあのちゃん」、三菱商事「アドベンチャースピリット」篇、LUUP「もう、フツーでしょ?」など。
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